Yamazaki Dental Clinic

フッ素

フッ素の科学

  現在国内で販売されている歯みがき剤の9割以上にフッ素(フッ化物)が配合されています、今では、フッ素のむし歯予防効果の恩恵を当たり前のように受けている私たち。でも、フッ素がどんなふうに作用するのか、フッ素を配合した製品をどう使えば予防効果を十分引き出せるのかについては、あまり知られていないのかもしれません。
フッ素のおもしろサイエンスと効果的な利用法を説明します。


 フッ素の配合された歯みがき剤の市場シェアが、国内で50%を超えてから、ほぼ20年が経過しました。現在のシェアは90%を超え、毎日歯をみがく人の多くが、フッ素のむし歯予防効果の恩恵に知らず知らずのうちに浴することのできる時代になっています。
とくに、歯が生えたころからフッ素配合歯みがき剤を使うことのできた小中学生や若者世代のむし歯は、とにかく激減しました。フッ素配合歯みがき剤のシェアが伸びたこの時期のむし歯数の推移には、驚くべきものがあります(↓のグラフ参照)。


 もちろん、むし歯が減った理由は、歯みがき剤のフッ素のおかげだけとは限りません。歯の健康についての関心が高まったり、歯みがきがひと昔前と比べて格段にていねいになったおかげかもしれないからです。
 ただ一方で、数十年前に比べて現代の食生活が歯によいかというと、そうとは言えない面もあります。甘いものやスナック菓子をいつでも買え、コーラやジュース、ビタミンC飲料など、歯を溶かしやすい酸性飲料が日常的に飲まれ、酢のかかったサラダをさかんに食べている現代の食生活は、むしろ20年前に比べて、歯に過酷だとも言えます。




 むし歯とは、歯を作っているミネラルの結晶が、むし歯菌の出す酸と化学反応を起こして、唾液のなかに溶け出すことをいいます。「化学反応」といってもイメージが湧かないかもしれないので、例え話をしてみましょう。中学校の理科の実験で、卵の殻を塩酸に浸けてその様子を観察したことがあったでしょう。あのとき強い酸によって、卵の殻がどんどん溶けていきました。卵の殻のミネラルの結晶が酸と化学反応を起こしたからです。要するに、あれに似た現象のグッとゆるやかなものが、歯とむし歯菌の出す酸のあいだで起きているということです。
 歯はカルシウムイオン、リン酸イオン、水酸化物イオンという3つのイオン加結晶化してできています。唾液にも、この3つのイオンがタップリ溶け込んでいます。この結晶は潜在的にはアルカリ性の物質です。一方、歯にプラークが付きむし歯菌がたくさんいて、そこへ砂糖が入ってくると、酸をさかんに作るのでプラークのなかが酸性になります。
 酸性になったプラークは、バランスを取るため、当然ながらこれを中和しようとします。でも酸を中和するには、どこかからアルカリ性物質を持ってこなければいけません。そこで足りない分け、歯のなかにあるアルカリ性のイオン(水酸化物イオン)をもらって中和するのです。これが「脱灰」という現象で、この状態か長く続くと歯が溶けてスカスカになりむし歯ができてしまいます。
 ただ、理科の実験では卵の殻は溶ける一方でしたが、唾液の力というのは本当に素晴らしく、酸を中和してくれますし、プラークを取り除いて口のなかの環境をよくしてあげると、唾液に溶け出ているイオンをまた結晶化させて歯に戻し修復してくれるのです。後ほど、その優れた働きをご紹介します。


 「脱灰」のイメージをつかんでいただいたところで、つぎに紹介するのが、唾液が歯を修復するしくみ、「再石灰化」です。
じつは歯は、私たちが食事をしたり、おやつを食べたりするごとに少しづついくらかは「脱灰」しています。それなのに歯がなくなってしまわないのは、唾液に溶けだした歯のイオンを再び結晶化させ修復するという、夢のような機能が唾液にあるからです。脱灰と再石灰化か繰り返されることで、歯の健康が保たれているというわけです。
 唾液のかかのイオンが結晶化するといっても、イメージしにくいかもしれませんので、また中学校の理科の実験を思い出してみましょう。液体の授業で、液体は「飽和状態」になると、結晶ができやすくなると習ったのを覚えていますか? ミョウバンの飽和溶液を作って、結晶を作る実験をしたと思います。口のなかでもこれと似た現象が起きているのです。

 じつは中性の唾液には、カルシウムイオンとリン酸イオンが過飽和の状態で存在します。酸で脱灰し小さくなってしまった歯の結晶が、中性にバランスを戻した唾肢の潜在能力によって再び大きくなって、スカスカになっていた歯が修復されるというわけです。唾液とはまさに「液体のエナメル質」なんです。
 ただし、こうした再石灰化の作用は、歯の外形がしっかりと残っている「初期むし歯」にだけ発揮され、少しでも穴が開いてしまった歯には残念ながら働きません。というのも、あまりにも歯がボロボロに脱灰すると、歯の表面の隙間が大きくなりすぎ、微細な歯のイオンだけでなく、唾液のタンパクまでペタリと入り込んで、再石灰化をジャマしてしまうのです。
ですから、十分な再石灰化を期待するなら、より初期の段階での予防が肝心です。定期的に歯科医院に通い、早期発見・早期対処を心がけましょう!




 「フッ素を使う」と聞くと、「歯の表面をコーティングするのかな?」と思うかもしかませんね。でもフッ素の歯への作用はこれとはまったく別物。とても不思議なことですが、カルシウムイオンやリン酸イオンといっしょに歯の結晶(フルオロアパタイト)を作り、歯そのものとなって脱灰を修復するのです。しかもその働きがとてもスピーディです。
 歯みがき後、口のなかに残った微量のフッ素は、歯の表面や唾液に留まるだけなく、プラーク(細菌のかたまり)にもシッカリしみ込みます。プラークはむし歯や歯周病を引き起こす諸悪の根源。きれいにみがいたつもりでも、取りにくい歯の溝や歯間などに残りがちです。フッ素はこれを逆手に取り、取り残しのプラークをフッ素の貯蔵庫として利用するのです。このフッ素の働きを実験室で細かく調べているうちに、おもしろいことがわかってきました。どうやらフッ素は、唾液が酸性のときもセッセと働くらしいのです。
 カルシウムイオンとリン酸イオンを入れたPH4.3(オレンジジュースとトマトジュースの中間くらいの酸性度)の液体のなかに、1PPm(0・0001%)のフッ素を加え、3日間の脱灰実験を行ってみました。するとなんと歯はまったく溶けていなかった。カルシウムイオンとリン酸イオンを引き連れたフッ素が、脱灰量に相当する分の結晶を作り、歯に沈着してくれたのでしょう。本来、酸性のなかでは歯は溶ける一方。しかしフッ素があれば酸性下でも再石灰化が進み、脱灰と再石灰化の平衡状態を保つことができる。とても頼もしい働きです。
 さらに特筆すべきは、こうして歯に沈着した結晶(フルオロアパタイト)がふたたび脱灰し唾液のなかに溶けるときには、フッ素がイオン化し放出されるということです。つまり歯自体がフッ素の貯蔵庫でもあるのです。長期間使えば使うほどむし歯予防効果がどんどん増えるのは、こうしたことも関係しているのかもしれません。


 歯みがきのあと、うがいをすると口のなかからフッ素が流れてなくなってしまうと思うのですが、どうすれば口のなかに残りやすいでしょうか?
歯みがき剤のフッ素がなるべく口のなかに残ったほうが再石灰化の効果は上がりやすいです。ちょっとした工夫があります。



 痛くなって歯医者さんに行くたびほかのむし歯も見つかって困っています。歯が弱いのは体質で、仕方ないのでしょうか?
 むし歯のなりやすさは、唾液の量や質、歯の耐酸性の違いだけでなく食習慣や歯みがき習慣にも影響されます。当医院で予防プログラムを作りますのでプロの力を使って歯を守っていきましょう。

 むし歯には、たしかになりやすい人となりにくい人がいます。生まれつき歯か弱いからむし歯になりやすいのか、それともほかに原因があるのか、この解明は、むし歯予防の永遠のテーマであり、つねにつきまとう問題です。
まず、むし歯の原因には、もともとの体質と、そうでない要因とがあります。この2つを区別してお話を進めましょう。
もともとの体質とは、唾液の量や質、そして歯の質のことです。唾液が十分に分泌されているか、唾液に酸を中和する力(緩衝能)かあるかは、再石灰化が十分に進み、脱灰した歯が修復されるかどうか、つまりむし歯ができにくいかどうかのカギを握る重要項目です。
 それから歯の質については、ある研究で永久歯のエナメル質の耐酸性について抜去歯で調べてみたところ、個体差が約4倍もあり、歯が溶けはじめるPHも、PH5.0からPH5.8と、大きな違いがあることがわかりました。
 とはいえ、患者さんの生きた歯を抜き、強いか弱いかを調べてみるわけにはいきません。ですから患者さんの歯が実際にどれくらいの強さなのかを知ることは現状では残念ながらできないのです。唾液検査で問題がなく、フッ素配合歯みがき剤を使って歯みがきをしていてもむし歯ができるというのでしたら、歯の質が弱い可能性はあると思います。
 ただ、はじめにお話したように、むし歯の要因は、もともとの体質以外にもいろいろあります。まず大きな要因となるのが食習慣です。おやつをちょこちょこダラダラ食べたり、始終飴をなめていると、口のなかがしょっちゅう酸性になって脱灰が続き、再石灰化が追いつかないためにむし歯になりやすくなります。また、口のなかのむし歯菌の量、そして歯みがき習慣も影響大です。みがいていても、いつも同じところにプラークが残っていると、つねにそこに酸が溜まるためむし歯ができやすくなります。
 間食を見直したり、飲み物を水やお茶に変えたり、プラークコントロールをレベルアップしたり、フッ素をより積極的に利用するなど、むし歯予防の引き出しはいろいろあります。当医院では、食事指導、歯みがき指導、定期的な歯のクリーニングやフッ素塗布など、あなたのためのむし歯予防プログラムを考えます。「歯が弱いから」とあきらめないで、歯科のプロといっしょに歯を守っていきましょう。


 前ページでは、むし歯にはなりやすい人となりにくい人がいること、そしてさまざまな要因がからまりあった結果として、むし歯のなりやすさ(リスク)が生じていることを説明しました。患者さんの生活習慣は一人一人違います。唾液の質や量、そして歯の質も十人十色です。むし歯のリスクが一人一人違うのは当然のことなのです。
 歯が酸に強く唾液の量や質も十分、口のなかのむし歯菌が少なく、ろくに歯みがきをしなくてもむし歯にならないという「運のいい人」もなかにはいます(溜め込んだプラークのために深刻な歯周病になる可能性は大いにありますが)。一方、ていねいに歯みがきをし、歯の健康について関心も高いのに、いつの間にかポツリとむし歯ができてしまうというかたもいます。
 こうした違いは、暴飲暴食してもまるで平気という胃腸の強い人がいる一方、なにかというとお腹を下してしまう人がいるのと同じように、ひとつの個性、ご自分の特徴だととらえていただくと理解しやすいかと思います。ただし、むし歯の場合は予防法が確立されていますので、完璧とはいかずとも、かなりの程度防ぐことができます。すぐにでもはじめてみてください。
 また、むし歯のリスクは、個人差のほかに、年齢によってもだいぶ違ってきます。学童期から高校生くらいまでの時期は、永久歯がまだ成熟しておらず耐酸性が低い時期です。また中高年になって歯ぐきが痩せると、エナメル質よりもI段と軟らかい象牙質が剥き出しになって、そこから根面う蝕という、この年代に特徴的なむし歯のリスクも高まってきます。むし歯予防は、その人の個性と生活背景、そして年齢に合わせたオーダーメイドで行われることが重要なのです。
 そこでフッ素の利用法も、リスクに合わせて工夫する必要があります。毎ロフッ素配合歯みがき剤を効果的に使うことは基本中の基本ですが、むし歯予防効果をさらに上げる必要があると考えられる場合は、フッ素ジェル(フォーム)も使ったり、フッ素洗口液の処方を歯科医院で受けたり、歯科医院で定期的にフッ素塗布を受けるなど、フッ素の利用法をいくつか組み合わせていきます。
 歯科医院が提供するむし歯予防プログラムでは、患者さん一人一人のリスクに合わせたフッ素の利用法の指導や処方、フッ素塗布といった処置が受けられます。定期的な検診、プロフェッショナルクリーニング、歯みがき指導や食事指導なども受けられるので、3ヵ月ごと、半年ごとなど、リスクに合わせて診てもらっていると安心です。また、むし歯予防だけでなく歯周病予防なども含めたトータルなケアを受けられますので、歯の健康維持にはうってつけです。一人で思い悩まず、予防歯科を診療の中心に据えているやまざき歯科医院で相談してください。

 参考までに、米国歯科医師会が1995年に発表した「リスク別のフッ素の利用法」をご紹介しましょう。日本では、歯みがき剤に配合できるフッ素濃度の上限が米国より低く(1000PPm以下)、またフッ素サプリメントの服用や水道水フロリデーション(水道水のフッ素濃度調整)が行われていないなど、フッ素利用の状況にだいぶ違いはありますが、リスクの大小によってどのようなプログラムが組まれていくのか、そのイメージはつかみやすいと思います。
(*なお上の表で米国歯科医師会が提案している歯科検診の頻度は、フッ素を日本よりも積極的に利用し、また純粋にむし歯予防を目的とする検診を想定しているため、通常日本で行われているむし歯予防十歯周病予防のための歯科検診の頻度よりも少なめの設定になっています。)
フッ素の害(班状歯)


うがいの水や唾液に流され、口のなかで1%の1万分の1~10万分の1の濃度に薄まるフツ素。
こんなにも微量で効果を発揮するすばらしいメカニズムを効果的に使って歯を大切に守っていきましょう。
フッ素利用の効果的な組み合わせかたを歯科医院で相談し、あなたのリスクに合わせた予防プログラムを組んでもらいましょう。

 みなさんは毎日、なぜ歯をみがいているのでしょう? 「むし歯予防のため」「歯周病予防のため」「歯を白く保つため」など、いろいろあると思います。ですがなんといってもいちばんの理由は、やはり、「爽快感」ではないでしょうか。「みがいたあとのサッパリ感を味わいたい」。だからこそ歯みがきがしたくなる。歯みがきはこうして、欠くことのできない毎日の習慣として根付いているのでしょう。
 生活のなかにすでに織り込まれている歯みがきの習慣は、フッ素を使ったむし歯予防を社会に拡げていく際の格好のデバイスです。微量のフッ素を口のなかにしばしば供給するには、歯みがき剤のなかにフッ素を配合するのがいちばんいい。新たな習慣をつけ加える場合はたいへんな努力が必要ですが、歯みがき剤を使うだけなら誰もができ、一定のむし歯予防効果が期待できる。これが世界中の歯みがき剤にフッ素が入っている理由です。
 むし歯の洪水といわれた時代をへて、日本でも、販売されているほとんどの歯みがき剤にフッ素が配合される時代になりました。現在ではむし歯が格段に減り、フッ素は着々と成果を上げています。


 フッ素の強みは、少々歯みがきが犬雑把でも(というと語弊がありますが)、よく効いてくれることです。歯みがきというのは、私たちが思っている以上に難しく、みがいたと思っても、歯と歯のあいだや、歯の溝のなかにはプラークが多少残っているものです。フッ素はそうした取り残しのプラークにしみ込み、むし歯菌が酸を放出するたびに、ポッ、ポッ、と飛び出して、酸の被害から歯を守ってくれるのです。歯みがきがていねいな人への効き目はもちろん、歯みがきが苦手な小さなお子さんや、歯みがきが雑な中高生、忙しいかた、ハンディーキャップのあるかたのむし歯のリスクも、ゼロにはできないまでも、一定の成果が上がる。それがフッ素の重要な効用です。
 ただし、「だったら歯みがきはしなくてもいいや」なんて考えないでください。プラークの取り残しは歯周病の原因にもなります。歯みがきが歯の健康にとってとても重要であることに、変わりはないのですから。
こうしたフッ素の働きのメカニズムについては、現在では多くが解明され、むし歯予防効果のエビデンスも多数上がっています。ただ、どのくらいの濃度のものをどれくらいの頻度で使うとどの程度の再石灰化か実現するかなど、さらに具体的で詳細な研究はまだまだで、今後の研究が待たれるところです。
 ましてや、自然界のどこにでもあるフッ素が、まるで計算しつくされたような至れり尽くせりの働きで、私たちの歯を巧みに守ってくれる不思議な現象が起きるわけとなるとまるで謎で、「神様からの贈り物」としか表現のしようがありません。
とはいえ、フッ素の効果を最大限に引き出すには、用量や使用法などコツがいります。またむし歯のリスクにはさまざまな要因が関わり、その実態は一人一人違います。リスクをトータルに下げるには、歯科医院で唾液検査を受け、定期的に口のなかをチェックしてもらうと同時に、フッ素の利用法、歯みがき、食事についての指導やプロフェッショナルクリーニング、フッ素塗布を受けて、リスク管理とトークルケアをお願いするのがいちばんでしょう。
 むし歯のリスク管理は、子どもにとってはもちろん、おとなにとっても重要です。中高年に多発する根面う蝕など、年齢とともにむし歯のリスクが高くなって、自分だけでは予防が難しいケースも出てきます。やまざき歯科医院といっしょに大切な歯を守っていきましょう。